同じ生地を切り分けただけなのに、発酵時間だけでこんなに違うのか【検証:常温発酵の比較】

生地

なぜこの検証をしたのか

前回の記事で発酵について調べたとき、ひとつ疑問が残った。

「常温で何時間置くのがベストなのか?」

「何時間置いたら一番うめぇのか?」

疑問はふたつだったけど、長すぎるとイーストが糖分を食い尽くして風味が落ちる、という理論はわかった。

じゃあ何時間が正解なのか。
イーストという生き物が生地の中でどう味に影響を与えているのか。

”発酵時間”

ほんの数時間の差で何が変わるのか。

ということで検証してみた。

仮説

前回の勉強で「長すぎるのはダメ」というのはなんとなく理解していた。
で、こんな予想を立てた。

  • 常温0分:風味・うまみが薄くてさっぱりした仕上がり
  • 常温1〜2時間:風味・うまみのバランスがよい
  • 常温4時間:過発酵気味で風味が落ちる

「長すぎはダメだけど短すぎも物足りない。ちょうどいい塩梅があるはず」
というごく普通の仮説だ。人生と同じである。

検証条件

変えるのは常温時間。
同じ生地を4つに切り分け、同じ冷蔵庫で同じ時間寝かせる。

レシピ:粉150g・水97g・塩3.5g・イースト0.5g

項目設定
冷蔵時間全パターン48時間
室温戻し時間全パターン30分
検証環境室温25度・湿度74%

パターンA:常温0分 → 冷蔵48時間 / パターンB:常温1時間 → 冷蔵48時間
パターンC:常温2時間 → 冷蔵48時間 / パターンD:常温4時間 → 冷蔵48時間

気付いただろうか?

レシピの粉、少なくない?と。

でもいったん考えてほしい。

一度に4枚ピザを焼いて食う。

食える?

ワイにはムリや。なのでこの分量にして4等分にしました。

ということで生地をこねこね

4等分

かわいい

0と書いた生地はこの後すぐさま冷蔵庫へGO!(パターンA)

1は1時間後に冷蔵庫へ(パターンB)
2は2時間後(パターンC)
4は4時間後(パターンD)

結果発表

冷蔵直前の見た目

パターンA:

うん、さっきこねてたやつね

パターンB:

ちょっとだけ膨らんでる?

パターンC:

明らかにふくらんでんじゃん!

パターンD:

ザ・発酵!って感じ

冷蔵庫にぶち込む直前のABCDをならべるとこう

次は48時間後に冷蔵庫から取り出した直後の写真

ラップを外すと…

←ビフォー
→アフター

こう見るとそれぞれの発酵感が全然違う。

いざ、それぞれの批評

パターンA:常温0分  総合点 3点

焼く前の生地の膨らみ:2/5(ほぼなし)
焼く前の生地の香り:1/5(匂いほぼなし、器のにおいした)
生地の伸ばしやすさ:3/5(普通)
耳のふくらみ:2/5(イマイチ)
耳の断面:2/5(空気の層が薄い)
風味・うまみ:3/5(弱い)
酸味:3/5(ほぼなし)

味はプレーンな感じ。可もなく不可もなくといったところ。焼く前に生地の匂いを嗅いだところ、生地の匂いははっきりせず、むしろ器の金属の匂いがした。要するに生地が何も訴えてなかったということ。最初の一枚目ということで特別期待をよせて焼いた生地は、別に何も期待に応えてくれなかった。まあ、うまかったけど
※バジルのせ忘れてた

パターンB:常温1時間  総合点 5点

焼く前の生地の膨らみ:4/5(見た目は一番いい)
焼く前の生地の香り:5/5(黒砂糖みたいな甘い香り)
生地の伸ばしやすさ:4/5(いい感じの硬さで伸ばしやすい)
耳のふくらみ:4/5(ふっくら膨らんでいる)
耳の断面:4/5(空気の層がありふわふわな断面、指でちぎってもつぶれない)
生地の食感:4/5(もちもち食感)
風味・うまみ:5/5(うまみ、甘みがある)
酸味:3/5(ほぼなし)

うまい。甘い。
黒砂糖みたいな香りがして、生地自体の味が主張しすぎず、具材とのベストマッチ感がある。妻も「パターンAよりこっちのほうがおいしい」と言っていた。妻の評価は正直で厳しいので、これは信頼できる5点だ。

パターンC:常温2時間  総合点 4点

焼く前の生地の膨らみ:3/5(発酵してるじゃんってくらいちゃんと膨らんでいる)
焼く前の生地の香り:3/5(甘い匂いはするがくどい、若干アルコール臭あり)
生地の伸ばしやすさ:3/5(伸ばしやすいけど生地が弱くて手にくっつく)
耳のふくらみ:3/5(膨らむけどBより弱い)
耳の断面:3/5(手でちぎるとつぶれる、空気の層が薄い)
風味・うまみ:4/5(うまみ・甘みはあるが生地の香ばしさが際立つ)
酸味:3/5(少し酸味あり)

生地の主張が強く、トッピングの味VS生地の味になっている感じがした。これは予想外だった。「発酵が進む=風味が豊かになる」もあるけど、「発酵が進みすぎる=生地の焦げっぽい香ばしさが前に出てきてトッピングを押しのける」という方向に変化していた。主役より目立ってましたな。

パターンD:常温4時間  総合点 2点

焼く前の生地の膨らみ:1/5(膨らんでいるというより生地がでろでろっとなっていた)
焼く前の生地の香り:2/5(明確なアルコール臭、日本酒を嗅いでいるみたいだった)
生地の伸ばしやすさ:2/5(伸ばしたら生地が破れた)
耳のふくらみ:2/5(膨らみ方が弱い)
耳の断面:2/5(手でちぎるとすぐつぶれる)
生地の食感:2/5(サクサクでももちもちでもない)
風味・うまみ:2/5(パターンCよりさらに生地の香ばしさが目立つ、甘みがほぼない)
酸味:4/5(すっぱい)

でろでろ。これに尽きる。生地をこねている途中で破けた。匂いは日本酒だった。
前回勉強した過発酵のサインが全部出ていた。アルコール臭、生地のでろでろ感、強い酸味。室温25℃で4時間はやりすぎだったのかな。

考察

朝6時からピザ4枚を完食して腹パンパンである。そんな腹パン状態で改めて思ったことがある。

イーストって、本当に生き物なんだなー。

当たり前のことをドヤ顔で言っている自覚はある。わかってる。義務教育は修めた。
でもね、実際に4パターンを食べ比べてみると、「あ、こいつらマジで生きて働いてたんだ」という実感がマシマシ。ただの白い粉と水と塩を混ぜた物体の中に、たった0.5gしか入れてない茶色いつぶつぶ。
なんの代わり映えのしない丸めた塊の中で、ワイ見えないところで糖分をむしゃむしゃと狂ったように食い続けていた。ワイはそれを何も知らずに極寒の冷蔵庫に強制収容。
…なんか今、人道的な観点から申し訳ない気持ちが芽生えた。

ミクロの決死圏で何が起きていたかというと、こういうことだ。

イーストは生地の中の糖分をエサにして生きている。常温の時間が短すぎたパターンAは、まだこいつらが食事の席に着いたばかり。お通ししか食べてないから風味・うまみなんて生まれてない。飲み会の最初のなんかまだよそよそしい雰囲気。ちょうどいい時間のパターンBだと、こいつらもいい感じに飯を食い、いい感じに酒も進み会話も進む。最高の飲み会だぜ。

問題は長すぎたパターンC・Dだ。こうなるとこいつらは完全に理性を失ってる。糖分をすべて食い尽くし、料理のなくなった机の前で今度はアルコールや酸を撒き散らしまくっている。完全に暴走モード。ゲロとげっぷまみれ。金曜29時の居酒屋の閉店間際、床で潰れてるやつと全裸で叫んでるやつしかいない地獄。

つまりイーストには最も輝く、働き盛りというゴールデンタイムが存在する。

その全盛期をワイが冷静に見極め、絶妙なタイミングで冷蔵庫に叩き込む。適切なタイミングで飲み会を強制終了させて帰宅させる。で、休ませる。このイーストのお世話こそがピザづくりの本質なのかもしれない。

…いや待て。なんかこれ、マネジメントっぽくない?

部下が一番いいパフォーマンスをするタイミングを見極めて、過労死する前に適切に有給を取らせる。有能な中間管理職の仕事そのものじゃないか。ワイはピザを焼いていたんじゃない、イーストのシゴデキ上司だったんか。

だとしたらパターンDのイーストはどう評価すればいい?あいつらはブラック労働の果てに燃え尽きてしまった。止めてやれなかったワイの責任だ。労基に駆け込まれても文句は言えない。ごめんね、D。

そしてもう一個、意外だった事実がある。

パターンCの「生地の主張が強すぎてトッピングとのバランスが崩壊した」という悲劇だ。ワイはこれまで「発酵が進む=風味が豊かになる=無条件でうまい」という、ハッピー方程式を信じていた。
だが現実は違った。

発酵が進みすぎた生地は、深みが増すどころか、自分ファーストのモンスターへと変貌を遂げる。

丹精込めて用意したモッツァレラも、新鮮なバジルも、酸味の利いたトマトソースも、全員を容赦なく舞台裏に引きずり下ろし、出がらしのくせに「俺を見ろ!!!俺が主役だ!!!」と舞台中央で独りよがりの熱演を始めるのだ。

ちょ、まてよ。

誰も一反木綿みたいな小麦粉の板をダイレクトに味わいたくてお前を食ってない。お前は上に乗った華やかな具材たちを輝かせるためのランウェイに徹しとけ。床が意思を持って立ち上がってきたら、ランウェイじゃなくてただの怪奇現象や。

自分の口に入れて、咀嚼して、初めて「あ、ちょっとウザいな」と理解した。 考えたことも感じたこともなかったことをちゃんと自分の舌で学べた気がして、なんかちょっとうれしい。

仮説との答え合わせ

【予想】 常温1〜2時間がベスト。

【非情なる結果】 常温1時間が至高。

だいたい予想の範疇だろと高をくくっていたが、イーストたちの全盛期は思った以上に一瞬で駆け抜けていった。

ブラック労働は「ダメ。ゼッタイ。」という予想は見事に的中した。しかし、じゃあどこまでならホワイトなのか、つまり「定時退社(1時間)が一番いい仕事をしていた」という事実は、実際に食べ比べて胃袋に入れるまで分からなかった。

薄っぺらい知識より、自分の舌で味わう体験ぶん殴られるのは、やっぱ違う。

脳内でピザを焼いた気になっていた自分を、今すぐENROに放り込んでやれ。

結論

不測の事態を考慮したうえでIQ53万の俺の脳内CPUがハジき出した結論は…

常温1時間!

もともとは同じ一つの塊から切り分けられただけの生地なのに、常温に置く時間をちょっと変えただけで、見た目も、匂いも、味も、まるで別物のように変化する。
これを発酵の神秘!イーストの生命力って本当にすごい!と涙を流して感動するのは、あまりにもおめでたい。

冷静に考えてほしい。

あいつらは、スーパーの製菓コーナーで1袋100円そこらで売られている、ただの茶色い粉だ。意志も知性もない、ただの単細胞の微生物の集まりである。

そんなゴミみたいな粒の分際で、ちょっと水とエサを与えられただけで「俺たち生きてまーす!」とばかりに調子に乗ってガスを吐き散らし、ちょっと別のことをしてたら簡単に1時間なんて過ぎるのに、ベストタイムから1時間オーバーしただけで高級なチーズもトマトソースもすべて道連れにしてしまう。

いやまあ美味しかったけどさ。

つまりワイは休日のはじまりに、カサカサの粉のご機嫌伺いをさせられていたのだ。
粉が飯を食うタイミングを監視し、粉が過労死しないように気を揉み、粉のメンタルをケアしつつ冷蔵庫へお送りする。

…粉やで。

完全にあの茶色い粉の下僕に成り下がっていたことに気づき、虚しい気分となったことでこの記事を締めくくりたいと思う。

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